半年以上前に『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著、幻冬舎)を読みました。これはピアノコンクールを描いた物語です。第一次審査、第二次審査、第三次審査そして本選とコンクール参加者が絞られていき、最後の優勝者が決められます。女性著者らしく、人の気持ちを綿密に描いていて興味深いです。
これが映画化され、先日封切りとなりました。それで今日、妻と一緒に見に行きました。文庫本で上下合わせて1000ページ近いものを二時間の映画にしています。ずいぶんカットされています。それでも映画は上手にまとめていました。演奏者の演奏する姿が見られます。音楽が聞こえてきます。音楽は本からは聞こえてきません。
映画を見ていて、一カ所身につまされる箇所がありました。高島明石という男性がコンクールに応募しました。彼は家庭を持ち仕事をしている人で、生活者目線でピアノを弾くという立場を貫くのです。コンテストには課題曲が一つあり、その課題曲の終わりの直前、ピアニストが自由に作曲したものを弾く場面があります。
彼は、自分が作曲したものを妻に聞いてもらうのです。すると妻が
「ごちゃごちゃして重たい」
と感想を漏らします。原作はそれだけですが、映画では、明石が反論します。明石としては自分が一生懸命作ったものを批判されることが辛く、強い口調で弁解するのです。妻は困惑します。それを見て彼は、自分が妻に感想を求めたことに気づき、弁解をやめます。
どこかで見た場面だと思いました。私もまた同じ経験をしているのです。私は説教原稿ができあがると妻に読んでもらいます。夜中の12時でも。最初の頃は、妻が色々指摘してくるのが面白くなく、つい弁解してしまいます。すると妻から
「私の意見を聞くのがいやなら、もう『読んで』と言わないで」
と言うのです。このことを思い出したのです。人間って勝手なもので、心のどこかでほめられたいと思っているんですね。自分の未熟さを思い起こされました。