「わが子よ、わたしは人間を造りたいと思う。そのためには問題が二つあった。人間は罪を犯すようになる。私は聖なるものであり、義なるものなので罪を見逃すわけにはいけない。そこでどうするか。さらに人間がどうしたら喜んで私の掟に従うようになるか」
「解決はむずかしそうですね、父上」
「そこでわが子よ、わたしはあなたを人間の世界に遣わそうと思う」
「私を人間の世界にですか。どういうことですか」
「わが子よ、あなたは人間として生まれ、育つ。そしてあなたは私のことを人々に伝え、人々に私を信じるように働きかけるのだ」
「でも人となるってどういうことですか。もし人となったら、こうして父上と一緒にいること、話し合ったことなど覚えているのでしょうか」
「あなたは人間の子として誕生する。まことの人間として誕生する。だから、わたしとこうして話し合ったことなどは覚えていない。わたしが世界を創造する前に、あなたがわたしと共にいたことも覚えていない。あなたは人間の子として成長する」
「あなたのことを覚えていないのですか」
「そうだ。あなたは人間として生まれ、心身共に成長していく。しかしあなたはほかの人間の子とは違い、聖なる者として生まれる。あなたは人間を父として生まれるのではなく、神の働きによって女性を母として生まれる」
「どういうことか、よくわかりませんが」
「分からずともよい。あなたはわたしを信じる民のひとりとして生まれる。そしてその民は神殿でわたしを礼拝している。あるいは会堂でわたしを礼拝している。会堂での礼拝では聖書なるものが読まれる」
「聖書とはどんなものですか」
「それはその民の歴史が書かれており、その民とわたしとの関わりの歴史が書かれている。またわたしを信じた者たちの祈りや、知恵などが書かれている。さらにその民が罪を犯すことはさきほどあなたに語った」
「そうでした。あなたによって救われたのに、民はあなたのことを忘れ、あなたの掟にも従わなくなると父上はお話しなさいました」
「私は預言者を遣わし、民にわたしに立ち帰るように導く。残念ながら民は立ち帰らない。聖書には、その預言者の言葉も記録されている」
「なるほど」
「あなたが会堂での礼拝に行くと聖書が読まれるのを聞く。するとあなたはわたしの思いを知るようになる。あなたは聖なる者だからだ。あなたはわたしが父であり、あなたが神の子であることを悟るようになる」
「会堂で語られる聖書が読まれるとき、わたしが悟るというのですね」
「そうだ。聖書を通して、わたしとあなたは結び合わされるのだ」
「なるほど。わたしはあなたとの交わりの中に生きるのですね」
「その通りだ。あなたは聖なる者として大いなる力を発揮することができ、人間を苦しみから救い出すことができる。聖書を通して、あなたは私の心を知り、掟を知り、それを人々に語ることができ、人々を私のもとに導く働きをするようになる」
「それはすばらしいですね。それならわたしを人間の世界にお遣わしください。あなたのご期待にこたえたいと思います」
「ところが問題が一つある。人々は一時はあなたを歓迎する。しかし最後にはあなたを迫害し、あなたを殺すことになる」
「本当ですか。そんなことがあっていいのですか」
「そうなのだ。こうして人間はわたしが送ったあなたを殺し、自分たちの罪を暴露するのだ。でもあなたを殺す者たちは信仰に立って自分たちは正しいことをしていると思い込んでいるのだ」
「そんな、そんなことがあっていいのですか」
「これでも人間の世界に遣わしてください、とわたしに言うことができるか」
「あなたにはわたしを人間の世界に遣わす目的でありました。その目的が何であるのか知るまでは、答えは出せません」
「そうだな、それを話さなければならないな」