―過去に重大犯罪を犯した人間が、会社の同僚だとわかったら?―
ミステリ界の若手旗手である薬丸岳が、児童連続殺傷事件に着想を得て、凶悪少年犯罪の「その後」を描いた傑作長編!
ジャーナリストを志して夢破れ、製作所に住み込みで働くことになった益田純一。同僚の鈴木秀人は無口で陰気、どことなく影があって職場で好かれていない。しかし、益田は鈴木と同期入社のよしみもあって、少しずつ打ち解け合っていく。事務員の藤沢美代子は、職場で起きたある事件についてかばってもらったことをきっかけに、鈴木に好意を抱いている。益田はある日、元恋人のアナウンサー・清美から「13年前におきた黒蛇神事件について、話を聞かせてほしい」と連絡を受ける。13年前の残虐な少年犯罪について調べを進めるうち、その事件の犯人である「青柳」が、実は同僚の鈴木なのではないか?と疑念を抱きはじめる・・・・・・
このような紹介文に惹かれて買って読んでみた。自分が主人公の益田だったらどうするだろうか、と考えたり、どんな結末を作者は用意しているのだろうかと考えたり、面白く読めた。同時に、重い内容をもっている。僕は今、教誨師として毎月、刑務所で聖書の話をしている。聞き手は受刑者。彼らもやがて刑務所を出て、我々のそばで生活をする。教会にも来るだろう。
『手紙』(東野圭吾)という本を次に買った。この作家は、ベストセラーを次々に出す作家で、福山雅治演じるガリレオシリーズの作者である。この方が、似たテーマで書いている。二人兄弟がいる。兄は弟を進学させたいと働いているが、仕事を失う。そして強盗に入り、あやまって人を殺してしまう。その兄が獄中から弟に手紙を書く。弟は、兄が犯罪者ということで世間から、冷たい視線で見られる。親はいないので、弟は、高校在学中からアルバイトをして生きていかなければならない。でも冷たい視線を世間から浴びせられる。読み始めたが、辛くて読み進められない。
弟は、犯罪を犯しているわけではない。殺人犯の弟という目で見られる。好感を持たれることはない。生きていく上で厳しい条件を背負い込む。世間の人は冷たい視線を浴びせる。そこに人を裁く罪を見る。自分を義として人を裁く罪。そして自分の内にも同じ罪がないとは言えないことも知っている。そういう自分の心の闇の部分が明るみに出されるような辛さを感じてしまう。
作家は、架空の物語を紡ぎ出す。しかも人間の真実を描く。すごいものだと思う。